臣女

臣女(おみおんな) (徳間文庫)
徳間書店 (2016-09-02)
売り上げランキング: 25,428
面白かった
2017年アメトーーク読書芸人で紹介された本。
「糞尿の話しかないのに純愛賞を獲っている。ここからどう純愛になるか見てほしい!」と言われ非常に興味抱いて読んでみた。

あらすじ:自分の不倫が原因で妻が骨の成長が止まらない奇病にかかってしまう。大きくなるだけではなく、激痛を伴い、精神的にも発狂してしまう病気に、旦那は罪悪感や責任感から献身的に介護するが―・・・

ぜんぜんキレイな話じゃない。だけど読後爽快感というかあたたかい愛に包まれてたなって思える。ぜんぜん綺麗なラブストーリーじゃないし、なんなら旦那が妻に愛してるっていう描写とかないし不倫するし不倫相手には愛してるっていうのに妻への愛が深いんだなって思える不思議。
巨大化するにつれて、食事量や排泄量がものすごいことになっていて、しかも未知の寄生虫によってめっちゃ臭いんですね。それでも甲斐甲斐しく世話をするし死んでしまったら大変だと思うんだけど、何度もやめようかと思ったり浮気相手のこと考えたり現実逃避したり汚い水あげてもわかんないんじゃないかと思ったり、汚い排泄をすればするほど妻の体がきれいになると思い込もうとしたり、介護中の気持ちがリアルだった。発狂した原因が浮気なのにずっと浮気相手のこと考えたりしたりして、旦那がすごいいい人ではないんだけど、夫婦モードに戻ってくるから夫婦という関係の強さを思い知ったし、いっぱいいっぱいの精神状態でよくがんばったなって思う。
最後のほうなんかもう泣けちゃう
さすが恋愛文学賞
胸につまるものがあった。
あと他の人が感想にかいてあったけど、この旦那さんが奥さんとの日々を小説に書いたとして、その後長く生きないんじゃないか。奥さんの世話をするのが使命と思っていたから、そんなに全力をかけることが今後ないと思うんだ。あと、最初のころの意思の疎通ができてたころより、体長も大きくなって発音が不明瞭になってからのほうが旦那さんの愛が深まったというか、自分が必要不可欠で庇護している感があるほうが、妻のこと思っているような感じがした。男の人って、自立してる女のほうがめんどくさくなくて楽だと思うのに、自分が守ってる感があるほうが愛が深くなるの矛盾してるよね。
好きなフレーズがあるからちょっと長いけど引用する。結婚及び夫婦生活とは潮の流れのようなものだと思ったからだ。

潮の流れは一定ではなく絶えず変化しているのだと分かった時には、既に抵抗出来ない奔流の中にいた。下手に抗う事など何の意味もない圧倒的な流れの強さだった。底知れぬ恐ろしさを感じ、私はべそをかき始めた。怖くて堪らなかった。私は何度も奈緒美の名を呼んだが、発した瞬間に声は闇の中に吸い込まれて消えていく。命が惜しかった。もっとましな人生があったはずだと思った。(中略)いつもいつも、肝心な選択を間違えてしまうのだ。我が侭でチンケな保身の心が、決まって判断力を鈍らせ、悪い結果を生んでしまうのである。捨て身になれない。自分の事しか、頭にないのだ。

ここだけ読むと物悲しいけど、これがこの本の肝なんだ。奥さんのこと、時折雑に扱いながら、可哀想で可哀想でならないのだ。
これが愛かもしれない、と思った。